ジロラモ・サヴォナローラ ~歴史から姿を消したボッティチェリ~ [歴史・人物]

初期ルネサンスで最も業績を残したフィレンツェ派の画家であり、メディチ家の保護を受け、宗教画、神話画などの傑作を残したにも関わらず、400年もの間忘れ去られていた画家・サンドロ・ボッティチェリ。
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輝かしい業績がありながらも歴史から消えてしまったのには、こんな訳がありました。
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ロレンツォ・デ・メディチ

親友でありパトロンでもあったロレンツォ・デ・メディチ(ロレンツォ・イル・マニフィコ)を失い、その悲しみのあまり、狂信的な修道士ジロラモ・サヴォナローラ(1452-1498)に心酔していきます。
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ジロラモ・サヴォナローラ

彼は説教壇から激烈な言葉でフィレンツェの腐敗ぶりやメディチ家による実質的な独裁体制を批判し、異教的なものを排除すべく、シニョーリア広場で市民から没収した書物や絵画を集め、焼却してしまいます。もちろん、その中にはボッティチェリの作品もあり、自ら差し出したものとされています。

彼に心酔していた頃のボッティチェリの絵画です。
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ボッティチェリ「聖母戴冠と四聖人」

「ヴィーナスの誕生」や「春」で見せた精彩が失われ、ルネッサンス以前の宗教画に逆戻りしたような絵です。

サヴォナローラの厳格な姿勢に対しては反対派の不満も高り、1498年、対立するフランチェスコ会修道士(サヴォナローラはドミニコ修道士会)から預言者なら火の中を歩いても焼けないはずだとして「火の試練」の挑戦を受けたが、フランチェスコ会側が怖気づいたために実施されませんでした。4月8日サン・マルコ修道院に暴徒と化した市民が押し寄せ、ついに共和国もサヴォナローラを拘束します。彼は激しい拷問を受け、教皇の意による裁判の結果、絞首刑ののち火刑に処され、自らが書や絵画を燃やしたシニョーリア広場で殉教しました。

その頃、ボッティチェリは1枚の絵画を描きます。
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ボッティチェリ「誹謗」
無実の罪で捕えられ処刑されたキリストの寓意がとされていますが、同時にサヴォナローラの死に対する思いが込められていたのかもしれません。

一番右の黒い服の人物は「猜疑」、その隣の審問官は耳がロバの耳のようになっていますが「不正」、審問官に手を差し伸べる男は「憎悪」、その奥の右ひじを上げた女は「欺瞞」、青い服の女は「誹謗」、青い服の女に引きずられる裸の男は「無実」、赤い服の女は「背信」、左側の黒い服の人物は「悔悟」、一番左の裸の女性は「真理」の象徴と言われています。また、「真理」を表す裸の女性には、諸説あり、ヴィーナスだとか、マグダラのマリアだとか言われていますが、異教的なものを否定していた当時のボッティチェリならきっとマグダラのマリアを描いたのでしょう。

その後、ボッティチェリは50代半ばからは筆を取らなくなり、貧困にあえぐ晩年を送り、65歳で生涯を終えました。

その後、19世紀イギリスのラファエル前派に注目されるまで、忘れ去られた存在となっていました。
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コメント 2

cucciola

Tarot-readerさま、

ご無沙汰をしております。
ボッティチェッリのこの晩年の不遇については、以前に日本のドキュメンタリーで知ってびっくりしたことがありましたが、400年もその名が埋もれていたとは知りませんでした。全盛期の伸びやかな筆遣いと色彩が、サヴォナローラという一人の男の影響でここまでガチガチになっちゃうのか、とそちらにもびっくりです。
プリニウスの記事も楽しく拝見しました。私も古代ローマの記事を読むと、よくプリニウスの引用があるのでそれだけは読んでいるのですが、やはり全部を通して読まなくてはいけませんね。反省です。渋沢さんの本は、最近ソニーの電子書籍でも購入できるので探してみます。
またおじゃまします。
by cucciola (2013-10-14 21:28) 

Tarot-Reader

cucciolaさま

こちらこそ、ご無沙汰しております。
こちらのブログに於いては1年ほど放置していたりして…未だに読んでもらえていたことに驚きと同時に恐縮です…。

>全盛期の伸びやかな筆遣いと色彩が、サヴォナローラという一人の男の影響でここまでガチガチになっちゃうのか、とそちらにもびっくりです。

私もこれがボッティチェリだと知って「どうしてこうなった!?」から、この記事に至りました。
もともと裕福な家で生まれ、とんとん拍子で生きて来た彼は挫折に弱かったのかもしれませんね。

澁澤龍彦の「私のプリニウス」電子書籍になるんですね。本当に、挿絵があればもっと分かりやすいのに…と思います。
by Tarot-Reader (2013-10-14 22:30) 

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