ルノワール「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢」 ~絵画史上もっとも有名な美少女の数奇な運命~ [歴史・人物]
ルノワール「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢」
おそらくこの絵を見たことのない人はいないでしょう。
絵画史上もっとも有名な美少女ではないでしょうか。
彼女の名前はイレーヌ・カーン・ダンヴェール(1872 - 1963)。
絵のモデルになった時は8歳でした。
この幸福そうな美少女、その後の運命は…。
裕福な銀行家の家に生まれ19歳で、同じく銀行家に嫁ぎました。いわゆる政略結婚です。
2人の子供に恵まれましたが、結婚生活は10年で破局してしまいます。
翌年、イタリア人の伯爵と結婚します。この結婚も20年あまりで終止符を打ちます。
その後、彼女が60代の終わりにさしかかる頃、第二次世界大戦が勃発します。
そして、ユダヤ人であった彼女の銀行家の夫と2人の娘はホロコーストの犠牲に。
同じくユダヤ系であった彼女の家族の中でも次女のエリザベスもナチスに捕えられ、収容所に行く途中で亡くなります。
ルノワール「バラ色と青色の服を着たカーン・ダンヴェールの少女たち」
右が6歳の頃のエリザベス。左は三女のアリス、当時5歳。
イレーヌがホロコーストから免れたのは、イタリアの伯爵と結婚した際に、ユダヤ教からカトリックに改宗しており、名前もイタリア風の名前になっていたためでした。
一方、第二次大戦中、イレーヌの肖像画はナチスの略奪に遭い、将校ヘルマン・ゲーリングが所有していました。彼は党のナンバー・ツーであり、美術品のコレクターでした。
戦争が終結後、ナチスの略奪品は返還されます。1946年パリのオランジュリー美術館はナチスから返還された美術品を展示しました。その中にはもちろん、イレーヌの肖像画もありました。
彼女は所有権を主張し、肖像画は彼女の元に。この時、すでにイレーヌは74歳になっていました。
後に印象派のコレクター、エミュール・ビュールレがイレーヌ本人から買い取り、肖像画はスイスへ。
1963年、イレーヌは91歳で波乱に満ちた生涯を終えました。
2013-10-15 19:50
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イレーヌの生涯に、ただただ涙します。
澄みきった、少女の ブルーの瞳は、何を見つめて、いたのだろう?
私は、彼女に逢いたくなった。
今からでも、ジュネーブへ行きたくなった。
by 田中 信喜 (2014-06-16 03:28)
田中さま
コメント、ありがとうございます。
幸福な少女時代の姿が絵画の中に永遠にとどめられたのは、彼女にとっては幸か不幸か…。
描かれた人物の背景を知ると、さらに絵に奥行きが出てくるような気がするので、こういうのを調べるのが大好きです。
by Tarot-Reader (2014-06-18 00:13)
文化祭の模写絵で書くことになったんですけど、結構深くて、難しく考えてしまいます…
by コマさん (2015-09-26 19:51)
本物のユダヤ人は若い日のアインシュタインや日本で活躍してテレビに出ていた数学者みたいに髪が黒くて目が茶色です。
この絵は、ルノワールが孫の男の子をモデルにして、髪の毛を想像で豪華にして描いたという説があります。
欧米では17世紀半ばまで Breeching boy といって5歳ぐらいまでの男の子にドレスを着せる習慣がありました。
男児用に作られた簡素なドレスや女児用の派手なドレスを着飾らせて絵画に描かれています。
http://www.google.com/search?q=breeching+boys&tbm=isch
by blolita (2015-11-22 20:30)
20代の頃に魅せられて、レプリカを購入しました。いまでも、わたしの理想の女性像です。何時観ても、心が洗われるような気持ちになり癒されます。
by 憂いのリチャード (2015-12-16 06:38)
コマさん、
もう読まれてないかも知れないけど、いい模写が描けるといいですね。
by Tarot-Reader (2016-07-16 18:53)
blolitaさま
コメントありがとうございます。
>この絵は、ルノワールが孫の男の子をモデルにして、髪の毛を想像で豪華にして描いたという説があります。
それは面白い説ですね。だとしたらどんな理由があったのか非常に興味深いです。
>欧米では17世紀半ばまで Breeching boy といって5歳ぐらいまでの男の子にドレスを着せる習慣がありました。
それは私も聞いたことあります。
こういうことを調べて好奇心が満足した時って本当に楽しいですよね。
by Tarot-Reader (2016-07-18 13:59)
憂いのリチャードさま
コメントありがとうございます。
>いまでも、わたしの理想の女性像です。何時観ても、心が洗われるような気持ちになり癒されます。
そういうミューズの存在、すごく大切ですよね。
by Tarot-Reader (2016-07-18 14:00)
今、複製画を見ています。印象派ですからね、何でしょう、えっ、ルノワールって何でこの絵だけ写実的に描いたんですかね?
by キン肉まん (2017-01-13 21:18)
キン肉まんさま
コメントありがとうございます。
>何でしょう、えっ、ルノワールって何でこの絵だけ写実的に描いたんですかね?
私はあまり印象派のことは興味がなく…ただ単にイレーヌに興味があっただけなので、アカデミックなことは言えませんが、依頼人からの希望でしょうかね?
by Tarot-Reader (2017-01-29 19:57)
私はスイスのビュルーレ美術館でこの絵を見ました。
中学校の美術の教科書で見たものの実物がめの前にある感動は言葉に尽くせない物であり最も美しい肖像画という評価にふさわしい。
もう一度スイスに行って他のルノワールも見たい。
どいつには毎年行って居るけど、この頃は美術館やお城めぐりよりも鳥撮影もおおい。
by 三和 (2017-09-27 19:53)
ようやく日本に来るのですね。
2018年2月14日~5月7日
国立新美術館「至上の印象派展 ピュールレ・コレクション」
30年ほど前に見て以来この日を待ちわびていました。
by Rio (2018-02-05 19:03)