上村松園 [芸術]

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「序の舞」1936年
この絵は私の理想の女性の最高のものと言っていい
自分でも気に入っている「女性の姿」であります。

上村松園(1875-1949)
明治23年、彗星のごとく、15歳の松園は現れました。
第3回内国博覧会に出品された彼女の絵は来日中のイギリス皇太子アーサー(ヴィクトリア女王の三男)によって買い取られました。、


誕生2ヶ月前に父を亡くした津禰(つね・または常子。後の松園)は、母・仲子によって女手一つで育てあげられました。幼いころから絵が大好きで、小学校を卒業後は京都府画学校に入学し、当時有名な画家だった鈴木松年の弟子となります。

私は母のおかげで、生活の苦労を感じずに絵を生命とも杖ともして、それと闘えたのであった。私を生んだ母は、私の芸術までも生んでくれたのである。

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人生の花1899年
この作品は松園の生涯の夢と憧れが描かれていたのかもしれません。

松園は妻子ある師・鈴木松年との恋に落ち、27歳の時、男の子(後の日本画家・上村松篁)を出産し、シングル・マザーの道を選びます。
明治時代、京都のような因習の強いところで、自分を押し通しこのような道を選ぶということがどれほど茨の道だったか。しかし中傷を跳ね飛ばすだけの作品を松園は世に出し続けます。

浄瑠璃「朝顔日記」のヒロインをモチーフにした「娘深雪」など江戸情緒あふれる作品が多い松園ですが、あまりの激しい恋心に錯乱した女性像を描いた「花がたみ」などは圧巻です。
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花がたみ1915年
モチーフは世阿弥の、謡曲「花筐」
 皇位についたら必ず都へ迎えるという約束もすでに秋になり、照日の前(てるひのまえ)は迎えを待ちきれずに玉穂の宮へと赴く。途中、天皇の紅葉狩りの行幸に出会い、狂女の振りをし形見の花筐を持って美しい舞を舞い、めでたく再会を果たすという物語です。

この絵をよりリアルに描くため、松園は京都の精神科の病院で取材をします。病院で見た患者の表情から、松園は、人は心を病んだ時、表情が乏しくなることに気づきます。うつろで無表情な照日の前の顔、乱れた着物…それらはまさに人間の狂気を表現することへの挑戦でした。

松園が目指した美人画…
それは女性にしか描けない美しさ、尊さをあぶりだし、男社会の画壇に示すことでした。
こうして松園は41歳の若さでゆるぎない地位を手に入れ、時代の寵児となります。

しかし、この頃、彼女は年下の男性に失恋し、スランプに陥ります。
また、世間も「あれは人形的美人画だ。古い時代の美しい顔と美しい着物が有るだけで、下には体も無く血も通はない精神は殆ど現れて来ない」と厳しい評価を下します。

そして苦悩の末に描かれたのがこの作品。
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1918年

誇り高い六条御息所は光源氏の正妻、葵の上への屈辱と嫉妬から生霊になり、葵の上を取り殺してしまうという謡曲葵上をモチーフにしたものでした。
嫉妬する女の美しさを描くにはどうすればいいか。
嫉妬する美人の能面には白目の部分に金泥を入れることを知った松園は、「焔」の女の目の部分に絹目の裏から金泥をほどこしました。目元は妖しく輝き、時に涙をたたえているようにも見えます。

「焔」は私の数多くある絵のうち、たった一枚の凄艶な絵であります。中年女の嫉妬の焔、一念が燃え上がって焔のように焼けつく形相を描いたものであります。思いつめるということが良い方面に向かえば勢い、熱情となり、立派な仕事をなしとげるのですが、一つ誤てば人を呪う怨霊の化身となる。女の一念も行き方によっては非常に良い結果と、その反対の悪い結果を来たすものであります。

植松松園の生きた明治から昭和の画家の世界は男社会でした。

全く女性の画道修業は難しい。凝(じ)ツと押し堪へて、今に見ろ 思ひしらしてやる、と涙と一緒に歯を食ひしばらされたことが幾度あつたか知れません。

そんな中、彼女の目指した芸術とは、「真・善・美の極致に達した本格的な美人画」でした。

その絵を見ていると邪念の起こらない。またよこしまな心を持っている人でもその絵に感化されて、邪念が清められる。芸術を以って人を済度する。これ位の自負を画家は持つべきである。
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コメント 4

マイン

Tarot-Readerさんの理想の女性って、ビクトリア女王とか。。。楊貴妃とかなんかそんなイメージを持っていました。
日本画にもお詳しいのですね^^

絵の女性はどれも美しいですが、「花がたみ」という絵は、一見すると美しいですが精神科で取材をされたという話を聞くショッキングですね。着物がはだけてるところとか、たしかに普通の人ではない雰囲気が漂ってますが。。。でも、とても美しい絵ですねvv
by マイン (2010-11-04 09:17) 

Tarot-Reader

マインさん、コメントありがとうございます。

ビクトリア女王とか楊貴妃ですか…
何やらゴージャスな(^ ^;)
私は男女問わず、自分の考えをしっかり持っていて、いい意味で我を貫き通せる人が好きです。
そういう意味では上村松園などは明治時代の京都でシングル・マザーの道を選んだり、男社会の芸術の世界に身を置いたり…生半可な気持ちではできませんよ。
国籍や時代を問わずそんな人が好きです。
今のベストはホ・ギュンですね。「千秋太后(チョンチュテフ)」も好きですけど。

「花がたみ」は私も現物は見たことないのですが、本で顔の部分をアップで見たときは、目がイッちゃってて、本当に怖かったです。一見「焔」の方が怒りとも悲しみとも取れる表情(般若かと思った)で強烈な印象を与えるのですが、「花がたみ」の方はじわじわ来る怖さみたいなのがありました。
でも美しいですv

美しいものならジャンルも洋の東西も問わず、何でも好きです(^-^)v
by Tarot-Reader (2010-11-04 22:35) 

隠者

言葉がありません。
素晴らしい作品ですね。
う~ん。何かを書こうと先ほどからキーボードを打っては消し、打っては消し・・・を繰り返しているんですが^^;やはり上手く表現出来ません^^;

ということで・・・隠者は一番『焔』が好きですね^^
お能でもそうですが、嫉妬に狂った女性というのはどこまでも悲しくそして同時に美しいものです。それ故、なんとも言えない、それこそ『女の性』みたいなものが溢れてとてつもなく恐ろしいのですが^^;

しかし、なんともまぁ。どの女性も立ち姿が美しい!!!
惚れぼれします^^
美しすぎて先ほどから、スクロールしまくりです^^;
いやぁ。ほんと美しい!!!

ピーン!

と張られた縦の線が何とも言えず上品です^^

T-Rさん。素敵な作品を紹介して下さってありがとうございます^^
by 隠者 (2010-11-05 00:13) 

Tarot-Reader

隠者さん、いらっしゃいませ(^-^)
お気に召して良かったです。

「芸術を以って人を済度する」とはまさにこのことですね。
こちらの背筋までピンと伸びてしまいました。

日本画というのはかなり大きいらしいのですが、その中にスーッと迷いなくまっすぐに引かれた線が、まさに迷いのない松園の生き方そのもの、という気がしました。

上村松園はふだんはモデルを使わず、自分の中のイマジネーションだけで描いていましたが、「序の舞」だけは息子の嫁(だったかな?)をモデルに使ったそうです。

「焔」は確かにインパクトがありますね。もっと大きな映像で見られると、その怒りと悲しみのまじりあった表情が見られると思います。また、クモの巣模様の着ものが、さらに女の情念を引きたてています。

イギリスの皇太子が買ったのは「四季美人図」と似たものだったそうです。
http://www.h-am.jp/special_exhibition/2009/nihonga-meihinsen.html
by Tarot-Reader (2010-11-05 20:15) 

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