「カルタゴの女王ダイドー」 マーロウの作品2 [文学]

ウェルギリウスの「アエネイス」でおなじみのディドの物語です。

ウェルギリウス版のあらすじはこちら↓
http://d.hatena.ne.jp/nisuseteuryalus2/20100727/1280171201
http://d.hatena.ne.jp/nisuseteuryalus2/20100730/1280458074
http://d.hatena.ne.jp/nisuseteuryalus2/20100730/1280493850
http://d.hatena.ne.jp/nisuseteuryalus2/20101003/1286105360

ディドが出てくるのは主に1と4の部分です。

カルタゴの女王ダイドー
クリストファー・マーロウ

※登場人物は英語読みで表記させていただきました。
ディド→ダイドー
アエネイス→イーニアス
ユピテル→ジュピター
ユノー→ジュノー
ウェヌス→ヴィーナス
メルクリウス→ヘルメス


ダイドー:不実なイーニアスは生き、誠実なダイドーは死ぬ。
 それゆえ私は冥界への道を選んだのです。
Dido:Live, fales Aeneas! Truest Dido dies;
Sic, sic juvant ire sub umbras.
Act V, Scene 1


舞台は、ジュノーとの不仲を象徴するように、ジュピターとガニメードの戯れるシーンから始まります。
そこへ、ヴィーナスが息子イーニアスが航海中に嵐に遭遇しているので、助けてほしいと懇願しにきます。
しかしジュピターは「これは運命だから」と冷たくあしらいます。
ヴィーナスはジュノーに助けを求め、イーニアスがカルタゴに漂着するように仕向けます。

カルタゴは女王ダイドーが、東アフリカの王・イアルバスから「牛の皮一枚で覆える範囲を与える」と言われ、牛の皮を細く裂き、できるだけ広範囲を覆って得た土地でした。
ジュノーとヴィーナスはイーニアスがこのダイドーと結ばれるよう画策します。
しかし、イアルバスも美しく聡明なダイドーに心を奪われていました。
また、ダイドーの妹アンナはイアルバスを愛していました。

カルタゴに漂着したイーニアスは、ダイドーと出会い、ヴィーナスが遣わしたキューピッドの矢により、愛し合うようになります。
面白くないのはイアルバスです。
彼は、ジュピターに、アンナを捧げるから、ダイドーとイーニアスを引き離すよう祈ります。
聞きいれたジュピターはヘルメスを遣わし、イーニアスにカルタゴを離れるよう言います。

イーニアスが戻ってくることはないと悟ったダイドーは、イーニアスを呪いながら、火を起こし、炎の上でイーニアスの剣で自らの胸を貫きます。

200px-Dido_Cochet_Louvre_ENT2000_10.jpg

ダイドーの死を知ったイアルバスは彼女の後を追って死に、アンナもまたイアルバスを追って死にます。

この作品はマーロウの処女作ですが、初演が1580年代だったこと以外、詳しいことは分かっていません。
この作品をシェイクスピアの「ハムレット」と比較したり、ダイドーをエリザベスI世になぞらえる論文など様々な解釈がなされています。
http://www.highbeam.com/doc/1G1-72094162.html

ドニゼッティのオペラ「マリア・ストゥアルダ」はメアリー・スチュアートとエリザベスI世がレスター卿をめぐって三角関係になるという内容ですが、何となくダイドーとアンナ、イアルバスと似てなくもない気がします。

もちろん、「ディドとアエネアス」というオペラもありますが。
http://homepage2.nifty.com/pietro/storia/purcell_dido_aeneas.html


ここで、僭越ながら私なりの解釈をさせていただくと、これは失敗した錬金術のレシピではないでしょうか。
マーロウもこの当時の知識人の例にもれず、錬金術を研究していたと思われます。
というのが、1598年に出版された彼の本に印刷されていたこのエンブレム。
emblem.gif
太陽と夜空とマリーゴールドの描かれたエンブレムに"NON LICET EXIGUIS"(小人、知るべからず)とラテン語で書かれています。
(最初は「奥義を知らぬ者」と訳したのですが、「小人(しょうじん)」とした方が意味が広がるような気がして変更しました)
マリーゴールド(マリア様の黄金の花)は、聖母マリアの祝日に咲いたため、この名がつけられたという由来があります。また、メキシコでは「死者の日」に飾られる花として知られています。

この物語を錬金術的に解釈すると…
ダイドー…第一質料、プリマ・マテリアル
4人の神々
ジュピター…火
ジュノー…水
ヘルメス…風
ヴィーナス…土
…の四元素と考えられます。

彼の口づけで私は永遠の命を得られる。
(And) he'll make me immortal with a kiss.
Act IV, Scene 5

このセリフをダイドーとイーニアスの結びつきによって、エリキシルができると考えれば…!?
そして、ダイドーの最期、炎(=ジュピター)に焼かれながら、剣(=風、ヘルメス)で胸を貫く、これは四元素の男性性が強かったため、失敗に終わったと解釈できないでしょうか…?



……秋の夜長に古典にふけってるうちに、想像力が思わぬ方向へ暴走したという話でした。
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コメント 2

マイン

ちょっと前だったらプリマ・マテリアルってなんだろう?って思ってましたが、今は意味がわかります^^;汗☆
なるほど、そういうふうに読み解けるのですね。
錬金術の本では男女の関係を錬金術になぞらえて解説されていてそんな考え方があるんだ!!と感心させられました。
昔の知識人には錬金術を学ぶ人が多かったのですね^^☆


by マイン (2010-10-12 01:32) 

Tarot-Reader

>昔の知識人には錬金術を学ぶ人が多かったのですね^^☆

20世紀の半ばまでは、ある程度の知識人はみんな、錬金術をたしなんでいました。たとえばニュートンなども。

マーロウの本は400年以上も前のものなので、実際に「ダイドー」にこのエンブレムが載っていたかはさだかではありませんが、自分の紋章として作品全てに載せていたのではないかと思います。
「小人(こびとじゃなくて、しょうじん)」にとっては、ただのアエネイスとディドの物語かもしれませんが、錬金術の知識があればこういう解釈ができるでしょうし、当時の宮廷の事情に詳しければ「ディド≠エリザベスI世」なんていう解釈ができたでしょう。


「小人、知るべからず」のエンブレムからも分かるように、マーロウ(に限らず他の古典も)の作品は、単に物語だけではなく、そこに様々なメッセージを含んでいます。
分かる者だけが理解すればいい、そういうメッセージを含んだ古典は星の数ほどあります。
タロットと古典はこういう部分が非常に似ていますし、私が「タロットをやるなら古典から!」と説いているのはこのためです。

タロットも古典も「小人、知るべからず」の世界ですw
by Tarot-Reader (2010-10-12 20:13) 

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