魔女の軟膏 [歴史・人物]
ドイツのハルツ山地には魔女伝説が多く存在します。例えば…
ある女が引き出しから軟膏を取り出し、それを全身に塗りホウキにまたがって煙突から飛び出した、など。
一見、ファンタジー小説のような荒唐無稽な話ですが、こうした伝説の中にはいくばくかの真実が隠されていることがあります。
現に魔女が空を飛ぶ際に使ったという魔女の軟膏のレシピもいくつか存在しています。
●トクムギ・ヒヨス・ドクニンジン・赤と黒のケシ・レタス・スベリヒユを合せたもの4に対して6の割合でオイルを加え、テーバイのアヘンを加える
●人間の脂肪・ハシシュ・アサの花・ケシの花・ヘレボルス・ヒマワリの種
ケシ、アヘン、ハシシュ…は麻薬として現在も使用されていますね。他にもアルカロイドやアトロピンなど副交感神経に作用する成分の含まれた植物ばかりです。というか、一歩間違えば死に至るような植物も…。
というわけで、これらのレシピから言えることは、強い幻覚作用のある軟膏を体に塗り、ホウキにまたがってあたかも空を飛んだような幻覚を見ていた、ということではないでしょうか。
また、医師であり、錬金術師でもあり、今も本が医学書として用いられるスイスのパラケルスス(本名:テオフラストゥス・フィリップス・アウレオールス・ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイム 1493-1541)も興味深いレシピを残しています。
奇蹟の医の糧―医学の四つの基礎「哲学・天文学・錬金術・医師倫理」の構想
- 作者: パラケルスス
- 出版社/メーカー: 工作舎
- 発売日: 2004/11
- メディア: 単行本
↑今も読まれているパラケルススの本
●新生児の肉・ケシ・イヌホウズキ・トウダイグサ・ドクニンジン
これらを煮てどろどろにするというのです。
このレシピから推測されることは…中世のヨーロッパでは陣痛や堕胎を促す薬草に詳しい産婆を魔女として糾弾していました。出産の際に母子のいずれかが命を落とそうものなら、魔女として魔女裁判にかけられる始末。
新生児は洗礼を受けていないため、悪魔が連れていくとされていました。また、レシピの中にあるイヌホウズキ(ナス科)は神経をマヒさせるので鎮痛剤としても使われますが、堕胎にも使われていた可能性があります。
おそらくパラケルススは「産婆=魔女」という仮説のもと、新生児と彼女らの持っていそうな薬草を合せてこのレシピを推測したものと思われます。
中世の人々の迷信と切っても切り離せない生活は、まるでファンタジーの世界そのもののようで、楽しくもあり恐ろしくもあり…興味が尽きません。
2011-02-13 21:10
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魔女狩りって、何故起こったのでしょうね。。。
何かの本で中世には大衆にも公開処刑を楽しむ趣味があったというような事を書いていたのを読んだ気がしますが、そういう猟奇趣味の一端だったのか、何か政治的な意味があったのか。。。><
by マイン (2011-02-14 18:38)
一口には言えませんが…
教会が権力をふりかざしたかったんじゃないでしょうか。
そして自分たちに従わない人間が目障りだったから、そういう人間を迫害していった、また、自分の保身のために誰かを犠牲にして潔白をしめした、気に入らない人間への嫌がらせ…などなど理由は様々です。
あとペストとか飢饉を誰かのせいにしたかったというのもあると思います。
>中世には大衆にも公開処刑を楽しむ趣味があったというような事を書いていたのを読んだ気がしますが、
これは中世に限らず、古代ローマもですし、時代・国を問わずどこでもあることではないでしょうか。
Roman holidayという英語の熟語があります。(ヘップバーンの映画のタイトルでもありますが)
一般的な意味は「ローマ(人)の休日 《他人の犠牲において楽しむ娯楽》」です。
人間は結構残酷な生き物だと思います。
by Tarot-Reader (2011-02-14 19:14)